2016年10月28日金曜日

『曼珠沙華―みりょう―』




「怖いんですよ」



その女は言った。
ここから彼女の瞳は見えないが、きっと赤い花が映っているのだろう。



「なぜ怖いのだ」



横顔と花を交互に見ながら問うた。



「単なる花じゃないか」
「単なる花です。ですが、どこかへ誘われるような気がして」



分からなくもない気がした。



「ではどこかへ誘われる前に」



手を差し出すと女は応えてくれた。






でも手遅れだった。
私はすでに彼女の横顔とその赤い花ー彼岸花ーに毒されていたのだ。


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