2016年5月29日日曜日

【「だから犬は嫌いなんだよ」】



昔々、お嬢様は猫を飼っていました。
広いお屋敷に一匹しかいない時もありましたし、たくさんたくさんいる時もありました。
どんな状態でもお嬢様は一匹一匹を大切に、愛情を込めて育ててやりました。

猫たちはそんなお嬢様の愛情に応えるようにみんなすくすくと育ちました。
―悪戯好きな子
 ―仕事を邪魔するのが好きな子
  ―足元にまとわりつく子
勿論、最低限しか寄ってこないような子もいました。
でもどの子も最期の時はお嬢様の膝の上で穏やかに逝きました。
何処までも慈愛に満ちた優しい紅の瞳に見守られ、虹の橋の袂に旅立っていったのでした。



そんな猫好きなお嬢様はあることがきっかけで猫を飼うのをやめました。
「まぁ仕方ないか」
猫のいない生活がずいぶんと続きました。




そんなある日、お嬢様は子犬が捨てられているのを見つけました。
犬にさほど興味を示していなかったお嬢様でしたが、この日は違いました。
「うちにこい」
月の名を与え、飼うことにした犬は銀色の毛が美しい子でした。


犬を飼ったことのないお嬢様は周りの者たちにいろいろと尋ねながら愛情を込めて育てていきました。
最初子犬は逃げ出そうとしたり、噛みついたりしていましたがお嬢様の愛に応えるようにまっすぐ、まっすぐ育っていきました。


いつしかお嬢様の側に犬がいることが当たり前になりました。
それはお嬢様にとっても、犬にとっても至極当然のことでした。
―主に似て誇り高く
 ―どこまでも主に忠実で
  ―たまに甘えて
勿論、叱られることや牙を剥くこともありましたが、そんなことは数えるだけでした。




ある日、お嬢様が目を覚ますと犬がいませんでした。
お嬢様は犬の名前を呼びながら必死に探しました。
いつも冷静なお嬢様にしては珍しく半狂乱でした。


犬がいたのは、お嬢様と犬が出会った場所でした。
犬はお嬢様が与えた物を最低限身に付け、そこにいました。
「―――」

微笑みを浮かべているような犬の頬に雫が一つ、落ちました・・・

2 件のコメント:

  1. 久々にこんなに泣ける話を...
    (´;ω;`)ウッ…

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    1. おおう…なんか申し訳ない気持ちに…
      こんな話になるとは私自身思ってもなかったので←


      単に甘々なレミ咲を書けない理由の一つだったりします…

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